作曲・編曲:宗本康兵
作詞・作曲:中嶋ユキノ 編曲:宗本康兵
作詞・作曲:中嶋ユキノ 編曲:宗本康兵
作詞・作曲:中嶋ユキノ 編曲:石成正人
作詞・作曲:中嶋ユキノ 編曲:石成正人
作詞・作曲:中嶋ユキノ 編曲:宗本康兵
作詞・作曲:中嶋ユキノ 編曲:石成正人
作詞・作曲:中嶋ユキノ Cello編曲:宗本康兵
作詞:中嶋ユキノ 作曲:Sin 編曲:石成正人
作詞:中嶋ユキノ 作曲:Sin 編曲:宗本康兵
作詞・作曲:中嶋ユキノ・浜田省吾 編曲:宗本康兵
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中嶋ユキノと、ツイートをまとめたエッセイ『僕の隣で勝手に幸せになってください』『NAKUNA』がベストセラーとなった、文筆家・写真家の蒼井ブルーさんとの二人のコラボレーション企画「中嶋ユキノ×蒼井ブルー」。
『Gradation in Love』に収録される楽曲“最後の恋”をテーマに、蒼井ブルーさんが書き下ろした『小説 最後の恋』をお届けします。
さらに、この書き下ろし小説のストーリーとリンクした、“最後の恋”のミュージックビデオを公開!小説では“最後の恋”の始まりの物語を、ミュージックビデオでは後に主人公の二人が直面する悲しい運命を、それぞれ描いています。どのような物語が展開されるのか、ぜひ確かめてみてください。
「最後の恋」(Music Video)/ 中嶋ユキノ
監督:大澤健太郎 主演:徳永えり・岡山天音
毎日出される「お題」に対し自由に「物語」を投稿でき、それに対して「表紙」をつけたり、様々なリアクションをして遊べるストーリーエンタテインメントプラットフォームであるmonogatary.comと中嶋ユキノがコラボ!
monogatary.comにてアルバム『Gradation in Love』のテーマとなっている“恋愛”にちなんだお題「この恋が思い出に変わる時」を中嶋ユキノ自らが考え、提供。沢山の方に様々な物語を作っていただきました。ひとつひとつが素敵な作品です、是非読んでみてください。
中嶋ユキノ
中嶋ユキノと、アニメーション作家きのしたがくさんとのコラボレーション企画「Yukino×きのしたがく」。アルバム収録曲「お・ふくろうママの歌」をアニメーションにしてお届けします。
手書きスタイルの柔らかいタッチで描かれた、歌に登場するキャラクターたちの愛くるしい動きや表現、そして歌に込められたメッセージを映像でご覧ください。
インタビュー・文 / 古矢 徹
中嶋さんはピアノの弾き語りになると感情が出てきて、
いい感じに荒さが出て、僕はそれがすごく好きなんです。
ハンドマイクで歌っているときもそうなればいいのにって思う。
ー アルバムの話に入る前に、まず中嶋さんと宗本さんのご関係についてお聞きします。音楽大学で知り合ってから15年くらい。第一印象など覚えていますか。
宗本 「……めんどくさい人だなあ」と(笑)。会ったその日に質問を100個くらいされたんで。
中嶋 「一緒にバンドをやろう」と言ってくれたのがすごくうれしくて…(笑)
宗本 都内まで帰るのに電車で2時間くらいかかる学校だったので、その間ずっと一方的に「どういう高校だったの?」「家族構成は?」「趣味は?」って、根掘り葉掘り聞いてくるんです。「めんどくさーっ」って。
ー でも、いきなりバンドをやろうと誘ったのは宗本さんなんですよね。
宗本 そう、友達に紹介してもらってセッションして「歌声がいいなあ」と思ったので「大会に出よう」と言って。なんか裏声のミックスボイスが綺麗でしたね。
ー 中嶋さんの得意技“強ファル”ですか。
中嶋 強いファルセットのことですね。そう名づけてくれたのが、康兵さんなんです。
ー 中嶋さんは宗本さんのことをどう思われたんですか。
中嶋 自分は今までバンドをやったことがない高校生活だったので、いきなり「バンドやろうよ」と言われて、少しときめきました(笑)確かちょうどその頃、康兵さんが川嶋あいさんの路上ライブを手伝いはじめていて……。
宗本 川嶋あいさんのサポートをはじめていて「歌のうまい子がいるから、コーラスを入れるのはどうですか」と提案して。
中嶋 一週間後くらいにバンドのリハーサルがはじまりました。今も一緒にやっているドラムの小笠原拓海さんとか、ギターの長澤孝志さんとかがそのときのメンバーで、私にとっては生まれてはじめてのバンドだったんですけど、バンマスの康兵さんが厳しくて厳しくて恐くて、あっという間にときめかなくなりました(笑)
宗本 あはははははは。
ー “Gradation in Love”、恋愛のグラデーションの変化が素早いですね(笑)。さて、アルバムの1曲目「Magenta Skyline」は弦が美しくて、短い曲ですが大きな空や大地が目の前に広がるインストゥルメンタルですね。作曲は宗本さん。
宗本 ライブのオープニングにもかかるオーバーチュアみたいなものをイメージして作りました。次の曲「もう二度と」とのつながりを考えていて、すぐにメロディーが浮かびましたね。
ー タイトルも素敵ですね。
中嶋 浜田さんにつけていただきました。夕暮れでもあるし、朝焼けでもある空。「もう二度と」のプロローグみたいな感じですね。
ー アルバム『Gradation in Love』の物語が、その「もう二度と」からはじまる。いきなり破局からという衝撃的な幕開けです。
中嶋 ふふふ、「もう会う約束はできない」といきなり男性をふる歌です。
宗本 自分勝手じゃない? まだ好きだけどふったんでしょ? なのに「また会いたい」とか言っている。だったら、よりを戻せばいいんじゃないの?
中嶋 女心というものは複雑なのですっ!(笑)
ー “想像するたび 胸が痛い痛い 痛い…”の部分が強力ですね。そのあとの心臓の鼓動を思わせるベースドラムも切ない。宗本さんのアレンジは、中嶋さんのボーカルや歌の主人公を優しく見守るような雰囲気があります。
宗本 僕は最初、ふられたほうの歌だと思って、だから切ない感じの女心みたいなものをイメージしていたんですけど、実はふっていたという。
ー でも、ふられた男……男とは限らないのかもしれませんが、そちら側からすれば切ないですし、もちろん好きなのにふる側も、やっぱり気持ちは切ないでしょうし。「Magenta Skyline」もそうですが、美しいストリングスは真部裕(まなべゆう)ストリングス。真部さんの公式サイトの、ハービー・ハンコック「Rock It」をバイオリンで演奏する映像がユニークで面白いですね。ちょっとポーカーフェイスで。どんな方なんでしょう。
宗本 人柄はよく分からないんですけど、とにかく音色が綺麗であったかくて素敵です。すごく好きで、いつも演奏をお願いしていますね。
ー Wikipediaには東京芸大首席卒業とありました。
宗本 むちゃくちゃ上手ですからね。中嶋さん、昭和音楽大学首席ですか?(笑)
中嶋 私、短大をちゃんと出席して卒業していますよ。
宗本 いや、卒業じゃなくて、首席?
中嶋 ……えっ、シュッセキ? シュセキ?
宗本 嘘でしょ!(笑)
中嶋 あっ、一番! トップ のことですね! ポピュラー音楽コースのボーカルの中では上位の成績だった…はず。
宗本 それは「首席」って言われたの?
中嶋 ……言われてない。
宗本 自称・首席だ(笑)。
ー 中嶋さんと宗本さんの会話は聞いていて飽きないですけど、アルバムの話に戻すと(笑)、「もう二度と」から一転、「冬になると」は軽快で、冬の街を走り出したくなるような歌。
宗本 弦を入れてほしいというオーダーがあったよね?
中嶋 弦をたくさんアルバムに入れたいというのがあったんで、康兵さんにアレンジをお願いした曲にはすべて弦が入っていますね。
宗本 僕は歌の最初から弦を入れていたんですけど、浜田さんから「サビから入れたほうが響きが広がっていいんじゃないか」というご意見をいただいて、やってみたら本当にそういうふうになったんです。僕にはそういうアイデアは全くなくて、「もったいないからいっぱい入れちゃえ」っていう、けっこう貧乏性な弦の使い方をしていたんで(笑)、すごく勉強になりました。
中嶋 私も、最初から弦が入っているデモが上がってきて「いい感じだなあ」と思っていました。ただ、前の曲の「もう二度と」で弦がバーッと鳴っているので、そういうメリハリがあってもいいのかなと思いました。
ー 石成さんのギターも、一瞬吹く気持ちのよい風を思わせる贅沢な使い方。美久月千晴さんのベースは一緒に歌っているような感じですね。
宗本 美久月さんのベースは不思議なんですよ。中嶋さん以外のアーティストのときもそうなんですけど、演奏していただいているときも素晴らしいんですけど、ミックスしたときに、より凄さがわかるんです。毎回そう思う。きっと、録っているときに、そのあとに重ねる楽器のことなども想定されて弾いているんでしょうね。
ー ドラムは全部打ち込みですね。
宗本 「生ドラムの揺れを作らずにタイトに」「人間っぽさじゃない方向に」ということでやっていきました。僕は逆に「生っぽく」と言われることのほうが多いし、とくに中嶋さんのやっている音楽のような場合、生っぽくしがちなんですけど、そこをあえてタイトなドラムで上が全部生というのは、やっていて面白かったし、今後、自分が他のアーティストのアレンジなどをやるときに使いたいアイデアだなと思いました。
ー でも、中嶋さんの気持ちとしては、けっこう葛藤もあったんですよね。
宗本 中嶋さんがけっこう頑固だったって浜田さんがおっしゃっていましたね。
中嶋 1枚目2枚目が打ち込みのドラムだったので、「今回はバンドで生でできたらなあ」と頭の中で思っていたのです。「ドラムは打ち込みで」と言われたときに、“打ち込み”という4文字が頭にこびりついちゃって(笑)。「打ち込みって、ど、ど、どうなんですか??」って。
ー よくそんな、浜田省吾に反論しますね(笑)。
宗本 中嶋さん、本当に凄いと思った。でも、中嶋さんが意見を言えるように、中嶋さんを立ててくれているんだよね。
中嶋 以前は、ほかのプロデューサーの方のときでも、なかなか自分の意見を言えず...。
宗本 浜田さんが、言える空気を作ってくれている。
中嶋 ありがたいです...。
ー 次の「最後の恋」は、もしかしたらシングル候補でしょうか。
中嶋 アルバム発売の前に先行配信しました!
ー あ、本当に。僕はそれを知らずに、アルバムを聴いてそう思っただけなんですが(笑)。
宗本 僕、最初に聴いたときに「すごくいい曲だ」って言ってなかった?
中嶋 言ってたね!
ー “切なく愛しく 命ある 最後の恋”。シンプルだけどすごくスケール感のある歌詞ですよね。
宗本 あっ、そのフレーズを浜田さんと議論していたよね(笑)。
中嶋 「こういうふうにしたら、もっと切なくなるよ」とアドバイスをいただいて“命ある”という一節が出てきたんですけど、“命”という言葉を自分が歌うイメージがあまりなかったので、「どうなのかなあ……」って。
宗本 僕は、そういう強い言葉があったほうが好きですね。
中嶋 さっきの“打ち込み”と同じように「いのち、いのち、いのち……」みたいになっちゃって。
宗本 でも「とりあえずやってみなよ」という話になってやったんだよね。
中嶋 そう、歌ってみたら、なるほど!でした。浜田さんに感謝です。
ー “最後の恋”という言葉も、もともと強力だと思いますが、“命ある”が加わると、これはもう尋常ではないほどのフレーズで。「助手席」や「願い文字」のような、ボーカル/中嶋ユキノ-ピアノ/宗本康兵コンビの新たな名作誕生という感じですね。自分でピアノの弾き語りをするときと、宗本さんのピアノで歌うときと、気持ちの違いはあるんでしょうか。
中嶋 全然違いますね! たまに、自分で弾いて歌う弾き語りの方が良いと言われる時もあります。弾き語りをしていると、ピアノにも頭がいくので歌にあまり頭がいかないから、わりとすっと聴く人に言葉が入っていくとか……。
宗本 僕も中嶋さんのピアノの弾き語りは好きなんです。なぜかというと、歌だけになると、ピッチなどを意識しているのか、丁寧すぎる感じになる。でも、弾き語りになると感情が出てきて、いい感じに荒さが出て、僕はそれがすごく好きなんです。だから、ふつうにハンドマイクで歌っているときもそうなればいいのにって思う。
中嶋 そう、でもどうしても考えちゃって。だけど今回のレコーディングは「リズムもピッチも考えずに自由に歌おう」というのを全曲のコンセプトにして録ったので、今までのなかでいちばん康兵さんのピアノに寄り添えたかなと思います。
ー 出だしのピアノなど、部屋の奥から鳴るような優しい響きですね。
宗本 それ、レコーディングのときにけっこう中嶋さんからディレクションがあったんです。こだわりのフレーズだったみたいで……♪シレソシレドドシシラドシド〜というフレーズだったんですけど、♪シレソシ“レソレ“ドドシ〜って入れてくれって。
ー メロディーに、なんというんでしょう、装飾音が加わる感じですね。
中嶋 デモを作っているときに「できるだけリフとか決めのフレーズは自分で考えて、それを再現してもらおう」と話していて、「最後の恋」のイントロも、ピアノ弾き語りの時に♪レソレ〜って自分で弾いていたので。
宗本 思い入れの強いフレーズなのかなと思って、その通りに弾かせていただきました(笑)。
ー そして「僕はボク」。これは、ピアノ弾き語り一発録音のアルバム『Starting Over』からのリミックス。今回は、チェロが入りました。
中嶋 康兵さんのアレンジです!
ー チェロは堀沢真己(まさみ)さん。小田和正さんツアーなどで活躍されている方ですね。
宗本 日本を代表するチェリストですね。いろいろなところから引っ張りだこの方で。中嶋さんの……。
中嶋 「助手席」もそうです。あのときも「素晴らしい!」と思って、今回も弾いていただけて嬉しかったです。
宗本 チェロの音色と中嶋さんの声って、合うよね。チェロってキンキンしていないし、あったかい成分がある、だからかなあ……。
中嶋 私の声が高めだからかな? 低音があると、全体にふくよかな感じになるのかも。
ー 新たに生まれ変わった「僕はボク」はいかがですか。
中嶋 これを作ったときに、サラリーマンが仕事に追われ、人ごみにもまれ……というイメージで作ったんですけど、“僕”と歌いながら、僕でも私でも、今を生きる人であれば誰でもあり得るシチュエーションなのかなと感じています。
ー 「大丈夫は大丈夫じゃない」と対になっているような曲ですね。
宗本 あの……これ、僕のピアノの手癖を真似してない?(笑)
ー 宗本さんのピアノの弾き方が中嶋さんに乗り移っている?
中嶋 そうなんです。康兵さんのピアノが好きなので……。
宗本 なんかベースの左手の感じがねえ、けっこう真似が入っているんですよ。
中嶋 康兵さんって、弾いたあとに左手を上げるんですね。
宗本 あっ、パフォーマンスのこと言ってる?
中嶋 パフォーマンスも似てきた!
宗本 し、知らないわ! やめて(笑)。でも、僕は大好きな武部聡志さんを真似しているんだけどね(笑)。
中嶋 あーっ! そこから代々受け継がれているのね!
ー 伝統芸の世界(笑)。そして「夢の中で Merry Christmas 」。気持ちのいいスピード感の歌ですね。石成さんの軽快なリズムギター、美久月さんの弾むベース、中嶋さん自身のコーラス、ストリングスも弾んでいます。
宗本 これは「ザ・クリスマスソングにしてください」というオーダーだったので、鈴とかチューブラーベルとか、クリスマスっぽい音色をふんだんに入れています。あと、コーラスをたくさん入れたり。
中嶋 とくに1番と2番の間のストリングスが好きですね。あれが出てきたときに、「康兵さん、やりよるな〜」と思いました(笑)。
宗本 ありがとうございます。
中嶋 サビの前も、♪タララ〜ンじゃなく、♪タカタカタッタカタカタカッていうダイナミクスがすごく好きです!
ー ラストが「お・ふくろうママの歌」。
宗本 中嶋さん、ふくろう大好きでしょ?(笑)
中嶋 大嫌いです!
ー えーっ、なんでですか! 首がくるっと回って不気味だから?
中嶋 なんか、ふくろうの一種で、敵が現れたらときに自分の身を隠すために、木の枝みたいに細くなるのがいるでしょ? ……もともとは丸っこくて可愛いのに。
ー ああ、擬態する動物の展覧会をやっていますよね、『化ケモノ』展(※枝に擬態するのはアフリカオオコノハズク)。
中嶋 展覧会、やってますね。その擬態をテレビで観て「なんて気持ちの悪い動物なんだ!」と。羽があんなにふわっとしていてぬいぐるみのようだと思いきや、「羽のなか、空洞だったの!?」みたいな。
宗本 あははははははは。
ー この正直さというか、あっけらかんとしたところが中嶋さんの魅力だと思いますし、ふくろう嫌いを知っていてあえてツッコミを入れる宗本さんもいい味出していますけど、それにしても、ふくろうが嫌いなのにどうしてこの歌ができたんですか。
中嶋 どんな曲にしようか考えている中で「……ふくろうか……ふくろう、ふくろう……おふくろさん? おふくろうママ?」って広がっていったんです。
宗本 この曲は、音的にはぜひリコーダーを聴いていただきたいんですよ。
ー ほとんど一瞬しか聴けないですよね。
中嶋 2番のAメロのところにしか出てこないんです。康兵さん、優勝したんですよ、リコーダーの大会で。
宗本 小学校のときにリコーダーコンテストというのがありまして、全国大会で金賞をいただきました。カルテットで、僕はバスリコーダーでした。
ー えーっ、天才少年? しかも、小学生でリコーダーカルテットをやるんですね。
宗本 先生が力を入れていて、毎日5時間くらい練習しました。息を安定させるために、腹筋して足を上げながら吹くとか。
中嶋 えーっ! ピアノもやっていたんでしょう?
宗本 ピアノをやっているのを音楽の先生が嗅ぎつけて、「絶対にリコーダーもうまいはずだ」みたいな。1か月くらいずっと勧誘され続けて入ったんです。
ー プロのミュージシャンになってからリコーダーは吹いていたんですか。
宗本 吹いてなかったんですけど、最近またリコーダーに目覚めまして、「吹いてみよう」と思って入れちゃいました。
ー この曲にリコーダーの素朴な味わいが合いますよね。それから、メロディーでは、♪何日も 何日も〜の部分のちょっとコブシが効いた感じのメロディーがいいですね。すごく耳に残ります。
宗本 僕は、そこは浜田さんのメロディーっぽいなと思っていて……。
中嶋 そこの部分は私なのです。
宗本 それを知って意外だった。
中嶋 ♪何日も〜。
宗本 ♪何日も〜。
ー あははははは、相変わらずいいコンビ。僕は、浜田さんっぽいとは思わなかったんですが、今までの中嶋さんメロディーにはなかった、新しい魅力だなと思いました。
中嶋 それは、歌詞を全部書いてからメロディーをつけたからかもしれないですね。
宗本 アウトロは、僕はただの白玉(※二分音符)にしていたんですけど、レコーディングのときに浜田さんが「こういうのを入れたらどうか」って、鳥たちがどんどん飛んでいく姿が浮かぶようなアウトロのアイデアをいただいて。
ー おだやかな弦に打ち込みのループが重なる、余韻の残るアウトロですね。最後に、中嶋さんのボーカルをすでに15年以上聴かれている宗本さんですが、変化など感じられますか。
宗本 どんどん変わっていってますね。中嶋さんは、時期によって歌い方が全然違う。今また変わっていますね。去年とはまた違う。
ー 2003年の『TEEN’S MUSIC FESTIVAL』という大会に「願い文字」でおふたりで出て、全国大会に出ながら賞が獲れず「いつか、絶対この曲をCDとして出す!」と泣き叫んだというエピソードの頃から、性格などは変わりましたか。
宗本 僕は『TEEN’S MUSIC FESTIVAL』にずっと出ていたんですけど、全国大会には一度も出ることができていなくて。中嶋さんが連れていってくれたんですごくうれしかったんですけど、中嶋さんは負けず嫌いがすごかったんですよ。同世代の女性アーティストがデビューすると、みんなディスっていましたし(笑)。
ー あはははははははは! では、浜田省吾プロデュースでメジャーデビューすると聞いたとき、宗本さんはどう思われたんでしょう。
宗本 もう、純粋に友達として「よかったねー!」と強く思いました。中嶋さんにやっと運が巡ってきた、と。
ー その頃はもう他人をディスったりは?
中嶋 もうなくなっていましたね。20代の頃は自分に納得がいっていなかったんです。うまくいっていなかったが故に焦りがあって、それが他人に向かったんだと思います…。
宗本 最近僕も、中嶋さんが誰かをディスってるのを聞いていないけど、若手にとかないですか?
中嶋 ないです、もうないです(笑)。
「楽器を弾いていて楽しい」ユキノちゃんのボーカル。
自分から出てくる歌詞とかメロディーに、
確固たる自信のようなものが見える3枚目ですね。
ー 石成さんがサウンドプロデュース/アレンジを担当された楽曲について、アルバムの曲順にしたがってお聞きします。まず「1分1秒」は、華やかで大人っぽいダンスナンバー。冒頭の短いスキャットは、今までの中嶋さんにはなかったセクシーボイスですね(笑)。
中嶋 アドリブみたいなやつですね。確かに今までなかった!(笑) 曲調自体も、これまでにはない感じで。
ー どんな話し合いからアレンジをしていったのでしょう。
石成 中嶋さんの作ったデモテープを、1曲ずつRoad&Skyのスタジオで聴かせてもらったんです。4曲やらせてもらうことになっていたんですが、初めて聴いたときから、どの曲もわりとアレンジのイメージが湧きました。
この曲については、中嶋さんの作ったデモにホーンセクションなども最初から打ち込みで軽く入っていて。それをモチーフに使って、もうちょっと派手にしたいなとかいろいろ考えながらアレンジしました。
中嶋 石成さんから音が上がってくるたびに、私はだいたい「最高!」「素敵!」しか言っていないんですけど(笑)、「1分1秒」は、最初ホーンを外していて、「ない方向で考えています」とおっしゃったので、「入れましょう、入れましょう」と言って。
石成 結局それで良かったんだよね。
ー イントロ、間奏、そしてエンディングのホーンセクションとギターの絡みがとてもスリリングです。でも、そう言われると、ホーンのないバージョンも聴いてみたくなりますね。
石成 イントロや間奏は、先にギターの印象的なフレーズを入れてしまっていたので、その間に入れるホーンを改めて書いた感じだったんですけど、サビはそういうギターのフレーズはなかったので、サビらしいホーンセクションが書けたんじゃないかなと思っています。
ー 下半身に響く気持ちいいベースは種子田健(たねだたけし)さん。
中嶋 とっても素敵なベースを弾いてくださって。
石成 すごいグルーヴなんですよ。
ー 先ほど、石成さんと同い年だとうかがいました。プロフィールも面白いですよね。「カレーとパチスロと近鉄バファローズをこよなく愛す」。
中嶋 そうそう、パチスロ! 種子田さんは、2013年の年末に一度ご一緒していて。そのときに私のプロデュースをしてくれていたSinさんも同世代なんですよ。
ー 1970年世代(1970年4月〜1971年3月生まれ)には、優れたミュージシャンが非常に多い。野球でいう松坂世代のように、これからは石成世代と呼びましょう。
石成 いやいや、自分の名前を冠にされると、それはおこがましいんですけど(笑)。でも、素晴らしいミュージシャンがめっちゃ多い。
ー プロデューサー浜田省吾のまわりには、1957年世代が多いですよね。古村敏比古さん、福田裕彦さん、美久月千晴さん……。ひと回りと1年違うところがちょっと惜しい感じもしますが(笑)、優秀なミュージシャン豊作世代。タイトル「1分1秒」には、つい福岡ソフトバンクホークス−横浜DeNAベイスターズ戦の国歌独唱のときのエピソードを思い出したりも。
中嶋 私、ヤフオクドームで国歌独唱したんです。
石成 えーっ。すごい!!
中嶋 歌い終わったあとに、テレビ中継をしていたFOX SPORTSのアナウンサーの方が「最近まで『一日一善』を、ご飯を一日に一膳食べることだと思っていた、そんなユニークな中嶋ユキノさんの国歌独唱でした』って。
石成 あはははははは!
中嶋 なんでプロフィールのそこだけ抜粋されるの?(笑)
石成 視聴者を湧かせようと思ったんでしょうね。
ー それにしても、伴奏もない国歌独唱は観ているほうも緊張しました。
中嶋 リハーサルもないですからね。でも、私、緊張しいなくせに、全然緊張しなかったんです。楽しみでしょうがなくて。「オー、イエーッ!」みたいな。
ー たしかに観ている側も、歌う前までは緊張していましたが、歌い始めてからは「おおー、堂々としているなー」と。
石成 きっと気持ちよかったんですね。
ー ボーカリスト中嶋ユキノは、石成さんにはどういう印象ですか。
石成 「気持ちいい声しているなあ」とずっと思っています。種ちゃん(種子田さん)もこの間「楽器を弾いていて楽しい」って言っていたよ。家で録音してきた仮歌を「これ、本チャンでしょ!?」って。
中嶋 そっちのほうが良かったりとか?(笑)
石成 いや、もう仮歌でパッと歌っても気持ちいい声なんだよ。
ー 「楽器を弾いていて楽しい」というのは、最高の褒め言葉のひとつですね。
石成 ホント、楽しい。曲によっての表情も豊かですよね。
ー 表情という点では、「恋模様」は中嶋さんのボーカルもリラックスした感じで、アレンジも歌詞の世界に沿った、心地よい空気感の曲ですね。
石成 優しい音を目指してアレンジしました。
中嶋 2日間の歌録りの最初の曲だったので、いちばん楽に歌える曲はなんだろうと考えて、だったら「恋模様」だろう、と。とてもリラックスして歌えました。サウンド面では、デモのイントロのフレーズを採用していただいて……。
石成 そうそう、ユキノちゃんが作ったデモにあったループを、そのまま使っている。僕が打ち込んだドラムのうしろにユキノちゃんが作ったループの音色をいじって貼ってある。採用!(笑)
中嶋 初めてのループ採用(笑)。
ー 美しいアコースティックギターも印象的です。
中嶋 自宅で録ったんですよね?
ー えっ、それはよくあることなんですか。
石成 たとえば、ほかのアレンジャーの方の編曲のときに、第一印象で弾いたものをデモとして渡して、スタジオで弾き直すこともある。でも、アーティストの方もディレクターの方も、そのデモのイメージが強すぎるんだと思うんですけど、結局自分の弾いたものをスタジオで真似しなきゃいけなくなる(笑)。それで「元のほうが良いじゃん」ってことが結構多くて。だから、アレンジするときに「ギターは最初からちゃんと録ろう」と。
ー ナチュラルな雰囲気の曲とも言えますが、種子田さんのベースの響きやシンセの音色などは、あまりアーシーとかレイドバックという感じではなく、全体の音像が現代的というか、洗練された味わいに聴こえます。これは石成さんのアレンジ全体に言えることのようにも思えますが。
石成 ああ、うれしいです。そこは気をつけているところなんです。僕が洋楽を聴き始めたのは80年代で、そこから70年代のものをさかのぼって聴いたんですけど、僕はそうした音が大好きなんです。でも、今のアメリカのチャートとか日本のチャートとか、最新の音楽も好きなんです。みんな、昔の音楽を消化してやっているじゃないですか。僕もそうありたいと常に思っているんです。
もちろん、ベタにしてくれという注文であれば、がんばってベタにするんですけど(笑)。そうじゃない限りは、やっぱり自分が今好きなサウンドを入れながらやりたい。たとえば、70年代のソウルっぽくしたいというのがあれば、それをやりながら今のヒップホップの感覚を足していきたいという、そんなふうに気をつけてやっています。
ー プロデューサーの浜田さんも、そういう方向の方ですよね。カントリーシンガーが歌っているんだけど、バックのサウンドは最新、というようなものを好まれている。
中嶋 浜田さんは、石成さんにも宗本さんにも「うわものはアコースティックなものにしたいけど、リズムは今の音にしてほしい」と言っていましたね。「リズムは今回は打ち込みにしてほしい」とも。だから打ち込みなんですけど、「1分1秒」のドラムは、スタッフのある方が「これは誰が叩いたんですか?」って。
石成 してやったり、だよね(笑)。「やったー!」って。
ー 生ドラムの気持ちよさを再現しつつも、じつは打ち込みの計算されたグルーヴであるという。
中嶋 それくらい、石成さんが絶妙な音作りをしてくださって。
石成 ドラムを叩くのも好きなんです。エレクトーンを習っていた子どもの頃、エレクトーンだらけでやるアンサンブルで誰かひとりドラムをやらなきゃいけないんですけど、女の子はみんなエレクトーンをやりたがる。だから「誰かドラムをやってくれませんか」と先生に言われて、僕が「はい、はい、はい!」って。
中嶋 へーっ。
ー ドラムも出来ちゃうんですか。
石成 フィル・コリンズのドラムを真似したり、それこそエイティーズですけどね。あと、もろレベッカ世代ですから、小田原豊さんはアイドルですよね。
ー ところで、アルバムタイトルの『Gradation in Love』を日本語に訳すと……。
中嶋 そう、それが「恋模様」なんですよね。
ー ちなみに、僕の直訳では『Gradation in Love』は、恋の段階的変化。
中嶋 あはははははははは!
ー そして、この「恋模様」がどういう段階かと考えたときに、途中にある最高に濃い段階を経て、透明感が出てきているような時期?
中嶋 恋をして、落ち着きはじめて、いちばん安心の状況ですね。まだマンネリもしていない。
石成 そういう曲って今まであったっけ?
中嶋 ないですね。だいたいがフラれるか……。
石成 思いが伝わらないか(笑)。
中嶋 あはははははは! だからこの「恋模様」は珍しいですね。「幸せ!」みたいなのは。
ー 『Gradation in Love』のそれぞれの色合いを意識して作ったり?
中嶋 アルバムタイトルはあとから決まりましたし、それは意識していないですね。私、本来は「恋模様」のような平和な瞬間が、いちばん好きなんです。平和で幸せでほわんほわん、みたいなのがいちばん安心するので、中嶋ユキノが本来持っている性格に近いものが出たかなと思っています。
ー 石成さんアレンジの3曲目は「大丈夫は大丈夫じゃない」。
中嶋 来ました、「大丈夫は大丈夫じゃない」!
石成 これがねー(笑)。
ー その展開は、大丈夫じゃなかったとか?
石成 大丈夫じゃなかった(笑)。4曲頼まれて、締め切りのなかでは……3曲しかやっていなかったと言ってもいいですね。この曲を考えはじめるとほかの作業が進まなくなっちゃうんで、この曲は“ない”ことにしておいて。……この曲、一度ライブでやっているんですよね。
中嶋 そう、今年の2月、ワンマンライブの追加公演でいきなり新しいこの曲をやったんです。譜面とデモ音源だけ事前に石成さんとパーカッションのさっちん(若森さちこさん)に渡しておいて、リハでもやらず打ち合わせもなしに、本番の「せえの!」でやってみよう、と。
石成 音を出していないので、お客さんの前でちょっとした打ち合わせをして。
ー その無謀な企画は、なぜ思いついたんですか(笑)。
中嶋 浜田さんからの案です。そのときすでにこのアルバムの制作に入っていたので、「なんか特別なことをやりたいんですよね」なんて話をしていたら、「新曲をやったらどうですか?」と。「でも、リハで集まる時間もないんです」と言ったら「ステージ上でいきなりいっせーのーせで!」と(笑)。
石成 ステージ上で打ち合わせするって、たしかにお客さんにとっては新鮮ですよね。「ああ、こうやってリハーサルしているんだ」って。
ー 結果はどうだったんでしょう。
中嶋 もう、大盛り上がりで。あの歓声は、東京では初めてでしたね。
石成 最後まで止まらないでいったし(笑)。お客さんも見守って盛り上がってくれて、僕達の集中力もすごかった。ただ、そこでやったのはフォーキーな感じのアレンジだったんだよね。マイナーでフォークソングっぽいコード進行だったので……そのままやると今回のアルバムでは絶対に浮くと思って。僕はさっき言ったように、ベタななかにも今のロックとかR&Bのサウンドが好きなので、絶対そっちよりにしたいと思ったんです。
中嶋 180度変わった曲ですね。
石成 でも、なかなか作業に入ることが出来ないままで。……夏休みの宿題のなかでいちばん大変な自由研究を、8月31日の夜からやりはじめて、始業式にやっと間に合って持っていけた感じ(笑)。
僕、アレンジするときは、たいてい立ってするんです(笑)。座りすぎは体によくないので、昇降式の机の足を持ち上げて……。ただ、もともとイメージはあって、ユキノちゃんのマネージャーの河原さんとかに「コールドプレイみたいにしたらどうかな」と言ったりしていて。言っちゃったから、それからコールドプレイを聴いたりして。
中嶋 あはははははははは!
石成 もともとのAメロの1個目のコードがEmで、それがフォーキーになっちゃう原因だと思って、まず1個目のコードをCmaj7にテンションが乗った感じのコードに変えました。イントロのコード進行も同じで、でもそうしたら、かっこいい導入なんだけど、Aメロの歌とのバランスを考えると、リフのほうが強すぎるかもしれないという話になって。だから、音はイントロの感じを残しつつ、コードはもとに戻して、今のが出来上がりました。
ー エレクトリックギターのアルペジオとストリングスのからみがスリリングな冒頭からいきなり、「大丈夫は大丈夫じゃない」という心の叫びを盛り上げる展開ですね。♪傷ついたって 躓いたって 涙は見せない〜の部分の、押し寄せる大波のようなアレンジも、とてもドラマチック。
石成 サビの頭は、それこそ立ってドラムを叩くようにしながらアレンジしていきました(笑)。
中嶋 たしか、スタッフのふたりとリハーサルスタジオにいるときに、石成さんからアレンジデモが届いたんです。スピーカーで流しながら聴いて、みんなで「イエーイ!」ってなりました(笑)。
石成 あ、ホント? それはうれしい。よかったー。
ー “心の中で 誰かに叫んでみたって 届かないわ”の♪届かないわ〜の叫びがとてもいいですね。ライブでお客さんが一緒に叫んでいる姿が目に浮かびます。そう叫ぶことで、リスナーの心にもある葛藤や悩みが解放されるような。
石成 初めてやったときタイトルを見て「いいタイトルだなあ」と思いました。みんなそう思っているんだよっていう。「大丈夫」って言っているときって大丈夫じゃないから、リスナーには絶対届くと思った。
ー 会場でみんなで叫びましょう。
中嶋 合唱したいなあ。男の人も、♪届かないわ〜って歌ってほしい。
ー 「キミに贈る歌」は「桜ひとひら」の中嶋ユキノとSinというコンビに、前作『空色のゆめ』のときの美しいアコースティックギターバージョンの石成さんが加わった黄金トリオ再び、というような曲ですね。
石成 これこそ、浜田さんが今のアメリカのヒットチャートをにぎわしているサウンドの感じにしたいというのが明確にあって、デモの段階からわりとその感じが強かった曲ですね。
ー スパニッシュギターのトラディショナルな味わいと、非常に現代的というか新鮮なリズムトラックの組み合わせ。一見ミスマッチのようにも思えて、素晴らしくドラマチックですね。
石成 ドラマチックというのも、僕がいつも気にしているポイントです。ライブで演奏しているときもそうですけど、ちょっと極端にやらないと伝わらないことというのがあると思っているんです。ちょっとだけやり過ぎくらいじゃないと、こっちが狙っていることが伝わらない(笑)。
ー 全体としては、聴くほどに味わいが増す感じのアルバムですね。石成さんは、中嶋ユキノさんの変化や成長について、どう感じていますか。
石成 ……譜面がよくなりました。
中嶋 あはははははははは! そう、ファーストのときはね、手書きで……。
石成 手書きは全然いいんですよ。でも「どこに戻るんだっけ?」みたいな。
中嶋 最初のアルバムから譜面の先生は石成さんでしたね。
石成 今回のは見やすかったよ。
中嶋 それがいちばんの成長かも。
石成 いやいや、譜面の話は冗談(笑)。なんか自分から出てくる歌詞とかメロディーに、確固たる自信のようなものが見える3枚目ですね。「こうなのかな、どうなのかな」という感じではなく「ここはこうなんです」「こうしたいんです」とちゃんと言える自信が出てきたのかな。
ー ところで、中嶋さんってどんなキャラクターなんですか。リハーサル中におどけた仕草をしてみたり、子どもが大人や仲間を笑わせているような姿をよく見るんですが、女性では珍しいタイプじゃないですか。あまり性差で語りたくはないんですけど(笑)。
石成 盛り上げようとして、すごくまわりのことを気づかっているんじゃない?
中嶋 ミュージシャンやスタッフから「中嶋さんの現場って楽しいよね」と言ってもらえるのが、いちばんうれしい言葉なんです。だから、そういうふうに思ってもらいたい自分がいるんでしょうね。
ー それにしても、動きが変ですよね(笑)。
石成 笑わせよう、和ませようとしているんでしょうね。バンマス気質なのかな。バンドのメンバーに「こうやってほしい」と伝えなければならないことがある。でも、なかには伝えづらいこともあるじゃないですか。そういうときにダジャレとか交えながら、やってほしいことはちゃんと言うっていう。僕もそうなんだけど。
中嶋 ああ、そうですねー。私もそっち系ですね。
石成 歌手の人は「これは嫌だ」というのはあるけど、歌にフォーカスしている感じの人も多いからさ。ユキノちゃんは、歌はもちろんなんだけど、サウンドも含めて全体をまとめたいタイプなんだろうね。
中嶋 ミュージシャン寄りなんでしょうか。……全然へなちょこですけど(笑)。
ー このアルバムを持ってのツアーも楽しいものになるでしょうね。
中嶋 ねーっ! 楽しみですねー。このアルバムを去年の秋のツアーと同じメンバーでやるんですけど…どうなるんだろう。「大丈夫は大丈夫じゃない」なんか、どうやってアコースティックでアレンジするのでしょう…??
石成 「キミに贈る歌」も、あんなにいろいろ弾けないよ。無理だよ。でも、コーラスがんばる(笑)。
中嶋 あー、コーラス多いですからねー!
河原 コーラスグループですからね。
中嶋 ABBAみたいな(笑)。
ー それはいいですねー。アルバムでは中嶋さん自身が入れているコーラスも……。
中嶋 ライブではそれが三声になったりして!
石成 僕らに振り分けられて。楽しみです!
女性シンガー&ソングライターに、
「もう二度と」のような歌を書いてほしいから
プロデュースを始めたようなものです。
ー 制作途中で浜田さんは「これは傑作になるよ」とおっしゃっていました。
浜田 自分自身のオリジナルアルバムで会心作が出来た時と同じくらいの充実感、手応えを今は感じています。
ー 前作のアレンジは水谷公生さんが担当されていましたが、今回はアレンジャーとして石成正人さんと宗本康兵さんを起用されています。
浜田 まずプロデューサーとして中嶋さんに言ったのは、この3作目からは、プリプロにおいて、まず自分でベーシックなサウンドを作ってほしいということでした。俺が描く中嶋ユキノの未来像として「アレンジが出来て、サウンドも自分で作るシンガー&ソングライター」というのがあるので、やれるところまで自分でサウンドを作って下さい、と。
ー そのベーシックなプリプロをもとに、石成さんと宗本さんに割り振ったということですね。
浜田 キーボードが主体になるサウンドの曲は宗本くんに、ギターが主体のものは石成くんに依頼しました。宗本くんは、学生時代から中嶋さんと一緒にバンドをやっていたりして、中嶋さんが最も尊敬しているピアノ奏者でアレンジャーだからね。
ー 宗本さんは、学生時代に中嶋さんに会ったとき「...めんどくさい人だなあ」と思ったそうですが(笑)。
浜田 アハハハ、あの二人はいつも幼なじみの友達という感じで、見ていて微笑ましい。彼と一緒にアルバムを作りたいと中嶋さんが望んでいたのは最初から感じていたし、たぶんこれから先もずっと音楽人生を共にする仲間なんじゃないかな。俺も、そうであってほしいと願っています。
そして、石成くんはFairlife(浜田省吾、水谷公生、春嵐によるプロジェクト)で一緒にやっていて、この二人のミュージシャンとしてのスキルの高さについてはよく知っていました。そして今回、アレンジャーとして制作に関わってもらったわけですが、その仕事ぶりも素晴らしいものでした。
最初にプリプロで上がってきた音を聴いたときに「おー、いいよーいいよー!素晴らしい!」って。例えばストリングスはサンプリングで打ち込んだ音が届いたんだけど、「もう、このままでいいじゃない!」というくらい良質で(笑)。それが、レコーディングの過程において、生のストリングスになってもっともっと良くなった。どのセッションも楽しく、喜びの連続でした。
ー 石成さん、宗本さん、おふたりのアレンジャーが共に語られていたのは、リズムトラックについてのプロデューサーからの要望でした。
浜田 今回は、とにかくリズムやビートはクリーンでタイトなものにしてほしいと要望を出しました。
ー 1枚目も2枚目もドラムは打ち込みでしたよね。今回はさらに、リズムを揺れのないジャストなものにして、そこにアコースティックなものを乗せるというアイデアがすごく面白かったと、お二人とも言っていました。
浜田 打ち込みといっても、リズムを生っぽく揺らすやり方もあるし、揺れのまったくないジャストなものにするというやり方もある。俺は後者でいきたい、と。なおかつ、生ドラム系であっても、微妙に加工されたエレクトロニカ系な音であるとか、ヒップホップ系とかEDM系の打楽器の音を混ぜて欲しい、と伝えました。そこが、今回のサウンドコンセプトにおけるポイントのひとつですね。
ー その狙いは? 非常にモダンな味わいに聴こえますが。
浜田 モダンという言葉がモダンかどうかはわかりませんが(笑)、時代の音というか、今はむしろそれが自然な音なんです。ポピュラー音楽が変わっていくいちばん大きな部分は、リズムやビートなんです。上に乗っている楽器の音って、もちろんシンセが出てきたりはしたんだけど、50年代や60年代からそんなに変わっていない。変化しているのは、リズムやビートを刻んでいる打楽器なんです。リズム、ビートの取り方も変化しているし、電子系楽器の音も日々変化している。
ー 中嶋さんとは、その部分でけっこう話し合いをされたとか。
浜田 中嶋さんは、最初は人間が叩く生ドラムにこだわった。そこは闘いでしたね(笑)。まあ、闘いっていったら大げさだけど、コミュニケーション不足もあって、説得するのが大変だった。「生ドラムがいいのもわかるし、そういうアルバムはいずれ必ず作ることになるから」って。全員がスタジオに集まって「せえの!」で録るような……たとえばキャロル・キングの名盤『つづれおり』のようなものも、いつかやる時が来る。でも、今回は今現在の音で、と。ただ、時代の最先端といっても全体をデジタルなものにするのではなくて、上に乗っているものは生楽器で揺れがあるものにしたかった。流行を追うダンスミュージックを作っているわけではなく、あくまで歌が真ん中にあるアルバムだからね。
ー たとえば石成さんのギターは、非常に美しくてトラディショナルな響きもあるんですが、それが現代的なビートに乗っていて、トラッドな音とはまったく異なる響きになっていますね。
浜田 新しいものになっているよね。まあ、石成くんは天才ギタリストなので、どのようなものにも対応出来るし、何を求められているかがすぐわかって、それを具現化するスキルがある。
ー お二人のキャラクターはいかがでしたか。
浜田 石成くんと俺とでは、年齢が20歳くらい離れているし、宗本くんにいたっては30歳くらい違うので、立ててくれるというか、優しく接してくれるよね。それに甘えないようにしてる(笑)。二人とも温かくて優しい人だから(笑)。 あと、俺はツアーを共にするバンドのミュージシャンとのレコーディングが殆どなので、今回初めて一緒にレコーディングする若手のミュージシャンとの出会いも新鮮で楽しかったです。
ー アルバムタイトルの『Gradation in Love』は、作品全体をよく表わしていますね。
浜田 「恋や愛にはさまざまな色彩や陰影があって、その光や色の変化がひとつひとつの物語になっている」そんなイメージです。曲の並びとしては、1曲目にインストゥルメンタルがあって、2曲目の「もう二度と」は、女性が新しい人生をはじめる歌。
ー 女性が男性に別れを告げる歌ですね。
浜田 俺は女性シンガー&ソングライターに、こういう歌を書いてほしいからプロデュースを始めたようなものです。その男性のことが好きなんだけど、このまま一緒にいたら自分に未来がない。だから「胸が痛い」と泣きながら、新しい人生をはじめる、という女性。
よく「同世代の女性に受け入れられる歌を」と言いますが、歌はある世代に歌いかけるというより、世代を超えて、同じ感性を持つ人達に届くものだと思っているんです。いつの時代にも、どこにでも、この曲のような気持ちの女性がいると思う。でも、こういうリアルな歌を書ける女性ソングライターは、そう何人もいない。俺自身は男性の視点からのリアルな歌を書こうとトライしてきました。中嶋さんには女性の視点からリアルな歌を書くシンガー&ソングライターになってほしい。この歌はそれが形になっている歌のひとつですね。
ー アレンジした宗本さんは「この女の人、自分勝手じゃない!?」と言っていましたが(笑)。
浜田 そう「この主人公、嫌い!」とかって(笑)。まさに、狙いどおりです(笑)。
ー でも、アレンジそのものは、中嶋さんのボーカルが歌の主人公を優しく見守る、そんな味わいですね。
浜田 そう、素晴らしいアレンジです。そして、3曲目「冬になると」は、いつか理想の相手に出会えるんじゃないかとさまよっている女性の歌。
ー 軽快で、思わず一緒に冬の街を走り出したくなるような歌です。
浜田 ホーンとギターが素晴らしい4曲目の「1分1秒」は、理想の男性に出会えてときめいている歌。そして5曲目の「恋模様」、愛する人に出会って心の平和を見つける。俺はこの曲の主人公の、明るくてポジティブなところがすごく好きだし、この曲でハッピーエンドなんだけど、次の「最後の恋」で、はじまりがあれば必ず終りがあるという、さらに人生の深いところまでたどり着く。6曲目まではそういうふうにつながっています。
ー まさに『Gradation in Love』ですね。「最後の恋」の“切なく愛しく 命ある 最後の恋”という部分は、とてもシンプルですが壮大な世界が広がる歌詞ですね。中嶋さんが、浜田さんから言葉の選択についてアドバイスをもらったとおっしゃっていました。最初は少し疑問に思ったとも。
浜田 最初は必ず抵抗する人なんです(笑)。「ええっ?」みたいな。そして何度も噛み締めているうちに「なるほど」って。でも、それは悪いことではない。いつも徹底して言っているのは「どんな作品でも、制作の過程においては小さな選択の連続だ」ということ。そして、自分のアルバムなんだから、最後はその選択を自分自身でするように、と。
たとえば歌詞にしても、助詞として「に」を選ぶのか、「が」を選ぶのか……そういう小さな選択の連続なんです。サウンドにしても、こっちの音色なのか、違う音色なのか。もちろん、音楽面では石成くんや宗本くんの方が経験も豊富だし、全体的なことなら俺の方が経験があるからアドバイスはするんだけど、最後は自分で選びなさい、と。選ぶ過程において悩むのはいいことなんです。それが心の筋トレになり、音楽的なスキルになるから。
ー 「夢の中で Merry Christmas 」は、出だしの部分などに浜田省吾テイストも感じます。
浜田 これは数年前に出来ていたSinさんと中嶋さんの共作曲ですね。最初に聴いた時に「いいメロディーだな」と思って、歌詞を磨いて、サウンドをあでやかにしたら素敵なクリスマスソングになると思いました。アレンジは宗本くんに託したんですけど、返ってきたものが素晴らしくて、アルバムの中でもかなり好きな曲です。
ー この2018年の年末に街にたくさん流れると……。
浜田 いいねー!
ー 「お・ふくろうママの歌」は、中嶋さんと浜田さんの共作です。
浜田 中嶋さんには、音楽人生の中で、3つの夢があるらしいんです。そのひとつを聞いて、だったら動物を擬人化して、子ども達が仲よく暮らすというテーマがいいんじゃないかなってアイデアを出して作りました。
童謡のような歌なので、必ずアニメを作ろうと企画して、きのしたがくさんという素晴らしいアニメーターに引き受けてもらいました。すでに絵コンテが届いていますけど、いいですよー! 中嶋さんは、それを見ただけで泣いてました(笑)。
ー 歌詞のなかではカラスが悪役を引き受ける形になっていますが、アニメでは違うそうですね。
浜田 そうそう、それはきのしたさんにお願いしたんです。カラスにだっていろいろと事情があるだろうからって。
ー 歌詞にもある“わけ(理由)あって”ですね。
浜田 悪者にしないで下さい、と。それから、上から目線で渡り鳥の家族を助けてあげるみたいな視点で描かないでほしいともお願いしました。みんながそれぞれいろいろなものを抱えて生きている。ただ、お・ふくろうママだけは絶対的な善であり愛であり、というふうに描いて下さいと。
ー 浜田さんのコーラスもとても印象的です。
浜田 中嶋さんの声域が高いので、下を支えることによってふくらみや柔らかさが出るだろうと思って入れました。
ー 最後に、中嶋さんの今後について、ひと言お願いします。
浜田 中嶋さんは、ライブも含めて今まさに修行中、成長期であると思います。自分自身を振り返ってみても、30代後半くらいからやっとまともな歌が書けるようになったし、ちゃんとライブが出来るようになった気がします。 だから、中嶋さんには、そして、ロードアンドスカイの中嶋チームのスタッフにも、焦らずに自分を磨いて、近い将来も遠い将来も含めて、音楽シーンの中に自分の生きる場所をしっかり確保してほしいと願っています。その手伝いの過程において、俺自身も音楽に関わる楽しさを感じることが出来たら、それが自分へのうれしいフィードバックです。